本庁舎と消防分署、仮設事務所の3ヶ所をつなぐネットワークを1本の無指向性アンテナと2本の指向性アンテナで構成。
岩手県野田村役場 様
岩手県北部、太平洋に面した野田村でも東日本大震災の津波による被害は免れませんでした。同村の発表によれば死者37名、流された家屋は300棟にも及び、役場や社会福祉協議会事務所、久慈消防署野田分署も被害を受けました。しかし現在は、がれきの処理も着実に進み、本格的な復興に向けた取り組みが進められています。
概要
ホタテや塩など海の幸に恵まれた、懐かしいふるさと。
村のイメージキャラクター・のんちゃんで村おこし。
役場庁舎も1階床上10センチまで津波が浸水。
野田村についてお聞かせください
陸中海岸国立公園内にあり、奇岩怪石連なる風光明媚なところです。肉厚で大きなホタテ(野田産ホタテ)が獲れますし、海水を直に煮詰めて作る「のだ塩」でも知られ、これを牛の背に積んで運ぶ道は「野田塩ベコの道」と呼ばれていました。たくさんの方が「初めて来たのに懐かしい」とおっしゃるように、村内には昔ながらの風景が広がっています。
村にはイメージキャラクターがありますね
国道45号線沿いに大きな人形があるので、気がつく方も多いようですが、名前を「のんちゃん」と言いまして、正体はサケの稚魚です。もともと野田村はサケが獲れるところでもあり、そうした豊漁・豊作のイメージと温かい人柄、ふれあいの和、そして村の発展といった願いを込めてイメージキャラクターにしました。「のんちゃんの野田村」と覚えておいていただけるとうれしいです。
東日本大震災での津波の被害はいかがでしたか
大きな被害を受けました。津波が堤防を超えて、たくさんの家屋を呑み込み、役場の前にあった社会福祉協議会事務所や久慈消防署野田分署も、倒壊こそしなかったものの、大きく損壊しました。役場も1階の床上10センチまで浸水しました。ケーブルやルーターがやられ、ネットワークは完全にダウンしてしまいました。ただ、震災の前に2階に移していたサーバーが無事だったのは幸いでした。
野田村役場
岩手県の北東部、北上山地の沿岸部にあります。北部および西部は久慈市、南部は普代村および岩泉町に接し、東部は太平洋に面 した東西11.3km、南北13.8km、総面積80.83平方kmの穏やかな自然に囲まれた野田村。野田村役場ではフリースポットの導入を検討されるなどITにも積極的に取り組んでおられます。
目標・課題
庁舎内のネットワークは復旧。消防分署と社会福祉協議会事務所とは未通。
社会福祉協議会事務所は仮設のプレハブへ移転。消防分署はそのまま使用。
社会福祉協議会事務所と消防分署、役場庁舎を結ぶネットワーク構築が課題。
どのように復旧に着手されたのですか
村のIT関連でお世話になっているシステムインテグレーターのアイシーエスさん(本社・岩手県盛岡市)のアドバイスもあり、光事業の導入に合わせて震災の2ヶ月ほど前にサーバーを2階に移していました。そのおかげで難を逃れることができ、データも無事でした。そこでまず、津波で壊れたケーブルやルーターを直し、庁舎内のネットワークに関しては早めに復旧させることができました。
消防分署や社会福祉協議会事務所はどうだったのですか
社会福祉協議会事務所は損壊がひどかったため、もう使えないことがわかり、役場横にプレハブの仮事務所を建て、そこに機能を移しました。久慈消防署野田分署は1階こそ津波の被害を受けましたが、建物自体は大丈夫だったので、そのまま使うことになりました。問題は役場庁舎と消防分署を結ぶ回線が被害を受けていたことです。内部情報を送ろうにも送れない状態でした。
どんな対策を考えられていたのですか
何とかしなければいけないと感じつつも、多忙な業務に追われ、なかなか手がつけられなかったというのが正直なところでした。役場庁舎内ではネットワークがつながり、サーバーも使えているわけですから、消防分署だけでなく横の仮設社会福祉協議会事務所ともつながれば、より多くの住民サービスができるのにという思いはありました。
解決策
バッファローからの申し入れを受諾。無線LANを導入。
3ヶ所をつなぐ無線ネットワークを依頼。無線への不安はなし。
1つの無指向性アンテナと2つの指向性アンテナを設置。
導入商品
どういう経緯で無線になったのですか
2011年4月に一度、バッファローさんから連絡をいただいた時には、私(下畑氏)まで話が伝わらなかったのですが、5月の連休明けにもう一度、電話をいただき、そこで初めてお話を聞きました。無償で被災地のネットワーク復旧を支援しているというので、こんなにありがたい話はない、お願いしますと返事させていただいたわけです。それこそ「渡りに船」という感じでした。
それで下見に来たわけですね
1週間ほどあとの5月中旬、バッファローの営業の方が下見に来られ、現地を見ていただきました。電話では役場庁舎と消防分署をつなぐという話でしたが、下見のときに社会福祉協議会事務所もあるので、この3ヶ所がつながる構成にしてほしいとお願いしました。無線については私自身、個人的に使っていますし、端末をどこにでも持っていけるモバイルの良さはわかっていましたので、不安はありませんでした。
どのような構成になったのですか
問題だったのは、社会福祉協議会事務所のある側は村長や議会関係の部屋があって、アンテナが立てられないことでした。そこで提案していただいたのが、役場と社会福祉協議会事務所にそれぞれ指向性のアンテナを立て、消防分署には無指向性のアンテナを立てる。つまり、消防分署を軸にV字型のネットワーク構成にするというものでした。これによって最小の工事で3つの拠点がつながるようになったのです。
効果
予想以上に早く復旧できたことに感謝。苦情もなし。
つながる便利さとつながらない大変さを両方とも実感。
無線の便利さを再認識。いずれ庁内での利用も検討。
実際にお使いいただいてどうでしょうか
3ヶ所の通信をどうしようかと考えていたときに、お話をいただき、予想以上に早くネットワークが復旧できたことは「ありがたい」の一言です。設定作業をしていただいたアイシーエスさんも含め、本当に感謝しています。使い始めて以降、職員からは誰も何も言ってきませんが、それこそ順調に機能していることの証だと思っています。
ネットワークの大切さを実感されたとか
今回はネットワークがつながっていることの重要性とつながっていないときの不便さを両方、実感しました。住民の方が来られても、ネットワークがダウンしているために、それに応えられないもどかしさ。サーバーにデータはあるのにそれが使えないつらさを痛感しました。こうした経験をこれからの業務にも生かしていきたいと思っています。
今後についてお聞かせください
今はプレハブの仮事務所になっている社会福祉協議会事務所をどうするのか。使っているけれど、損傷を受けた消防分署をどうするのか。すべてこれからの検討課題ですが、すぐに解決できる問題ではありませんから、当面はこの状態が続くことになると思います。無線の便利さを再認識しましたので、今回のような屋外無線だけでなくいずれ庁内で使うことも考えていきたいと思っています。
取材後記
野田村様の場合、きっかけはバッファローからの電話でしたが、最終的に地元のシステムインテグレーターであるアイシーエス様との二人三脚で支援をする形となりました。仮設の場合、アンテナを立てる場所に制限があるため、無指向性アンテナを利用してネットワークを構成しなければならないケースもありますが、野田村様はそうした事例の一つになりました。