無線LANを試験的に導入する市教委のプロジェクトにモデル校として参加。タブレット等を活用した授業で無線LANの動作とその効果を検証

弘前市立高杉小学校 様

弘前市教育委員会 学校づくり推進課改革推進係主事
竹内元気氏(左 以下、竹内氏)、
弘前市立高杉小学校 教務主任 平野敏彦氏(右 以下、平野教諭)

青森県弘前市立高杉小学校(以下、高杉小学校)では、弘前市教育委員会が実施している「次世代のひろさきICT活用教育チャレンジプロジェクト」の一環として、平成29年7月に校内の無線LAN導入を実施。3教室あたり1台の無線LANアクセスポイント「WAPM-2133TR」を設置し、1~6年生のすべての教室で無線LANを利用できる環境を整えました。以前に導入されていた実物投影機、プロジェクター、Apple TV、タブレットを活用してアクティブラーニングを実施。通常の授業から「ひろさき卍(まんじ)学」と呼ばれる総合学習まで、幅広い場面でICTを活用した授業研究に取り組んでいます。

概要

全校児童数152人教員数14人の小規模な公立小学校

高杉小学校を含めた3つの小学校で試験的に無線LANを導入

PTAや近隣住民の協力のもと、心豊かにたくましく生き抜く児童を育成

平成26年に建てられた高杉小学校の新校舎。
「津軽富士」とも呼ばれる青森県の最高峰「岩木山」が間近に見える

高杉小学校は、弘前ねぷたまつりやりんごの産地などで知られる青森県弘前市の公立小学校。市街地から8kmほど離れた農村地帯にあり、全校の児童数が152人、教員数が14人の小規模な小学校です(平成30年8月現在)。地域とのつながりが強く、PTAはもとより近隣住民も児童の教育に熱心で、学校運営に対しても協力的です。

「た」高い目標に向かって挑戦し続ける子、「か」感謝の気持ちや感動をしっかり表す子、「す」進んできまりを守り、礼儀正しく行動する子、「ぎ(き)」絆を深め、団結し合う子、を「めざす子ども像」とし、夢や希望を育み、心豊かにたくましく生き抜くことができる児童の育成を目指しています。

無線LAN導入を機に、弘前市で上位のICT活用校に

弘前市教育委員会は、ICTを活用した教育を導入するための様々な施策を実施してきました。現在取り組んでいるのが、「次世代のひろさきICT活用教育チャレンジプロジェクト」。平成27年から実施していた「『弘前式』ICT活用教育推進事業」をさらに推し進め、3つのモデル校でタブレットと無線LANを活用し1人1台環境での授業を試験的に行い、今後の方針決定に活かしていこうとするものです。

高杉小学校は、そのモデル校に選ばれ、1~6年生の全教室の無線LAN導入が実施されました。これを機に、教員のICT活用に対する意識が高まり、タブレットをはじめとするICT機器が様々な授業に活用されるようになりました。現在は、弘前市でも上位のICT活用校として、より効果の高い学習方法の開発と情報共有に取り組んでいます。

弘前市立高杉小学校

明治9(1876)年に、独狐小学、高杉小学として開校。合併・分離を経て、独狐小学校、高杉小学校となった後、昭和38(1963)年に再統合され、弘前市立高崎小学校となった。教育目標は、「かしこく 心豊かに たくましく」。最後まで粘り強く取り組み、相手の立場を考えた行動ができ、健康的な生活と体力増進に励む児童の育成を目指している。教職員・保護者・地域・関係機関等が、心・考え・思い・願いを通わせながら、創意と活力ある学校づくりに取り組んでいる。

所在地

〒036-8302 青森県弘前市大字高杉字神原7-1

電話

目標・課題

ICT活用教育を目指した「弘前式」3点セット

「次世代のひろさきICT活用教育チャレンジプロジェクト」のモデル校に

新たなプロジェクトのモデル校として、タブレットと無線LANを導入

弘前市では、文部科学省の委託事業である「インクルーシブ教育システム構築モデル事業」を平成25年度から受託。学びの協力員による支援体制等の在り方や、ICTを活用した合理的配慮に関する実践的研究に取り組んできました。

平成27年度には、実物投影機(書画カメラ)、電子黒板機能付き短焦点プロジェクター、教員用タブレット型端末の3点を導入・活用する「弘前式」ICT活用教育推進事業に取り組み、モデル校4校に学級数と同数の「弘前式」3点セットを配備。翌28年度には、その他の全小中学校に学級数の1/3の実物投影機とプロジェクターを配備し、ICT支援員によるサポートを実施しながらICTの活用を進めてきました。

平成29年度には、タブレットを1人1台形式で利用し、NTTコミュニケーションズの「まなびポケット」を活用する「次世代のひろさきICT活用教育チャレンジプロジェクト」を実施。市内の3つの小学校に、タブレットと無線LANを導入し、その成果と課題を検証しています。

立地・規模別に3パターンのモデル校を選定

高杉小学校を「次世代のひろさきICT活用教育チャレンジプロジェクト」
のモデル校に選んだ経緯を説明する竹内氏

「次世代のひろさきICT活用教育チャレンジプロジェクト」のモデル校に選ばれたのは、高杉小学校、文京小学校、千年小学校。立地や規模が異なる3つの小学校で実施することで、『まなびポケット』によるタブレット活用の効果とそれぞれのパターン向けに選定した無線LANアクセスポイントを検証するのが狙いだったと、竹内氏は言います。

「高杉小学校をモデル校に選んだのは、校内研修のテーマにいち早くICTを採り入れていて、今後のICT活用に期待が持てる学校の一つだったからです。また平成26年度に校舎を新設していたため、インターネット回線と各教室への有線LANを敷設済み。追加のネットワーク工事が不要だったのも好都合でした。弘前市には、高杉小学校のように1学年1学級という小規模な学校が多く、そうした学校のテストケースとしてもモデル校にふさわしいと考えました。」(竹内氏)

解決策

カタログスペックではわからない現場での性能を検証

複数台同時接続時の安定性を重視した機器選定

導入商品

11ac/n/a & 11n/g/b同時使用
法人様向け
無線LANアクセスポイント

ネットワーク管理ソフトウェア

バッファローを含む様々な企業の無線LAN機器を各校に設置・検証

「次世代のひろさきICT活用教育チャレンジプロジェクト」のモデル校となった3つの小学校には、それぞれ別のメーカーの無線LANアクセスポイントが設置されることになりました。これには竹内氏の思惑がありました。

「当初は可搬式の無線LANアクセスポイントを各校に1台ずつ設置したのですが、高杉小学校のように教室移動の際に階段を上り下りしなくてはならない学校もあり、実際の運用が大変です。そこで常設にすることを検討したのですが、難しかったのは機器の選定。当教育委員会には無線LAN機器の情報が十分でなく、ある学校の公開授業では、使用した無線LANアクセスポイントの不具合で、授業が中断してしまったこともありました。そこで慎重を期すために、バッファローさんを含めた様々な企業にプロジェクトに参画していただき、各社の推奨機器を実際に現場で使ってみることにしたのです。カタログスペックだけではわからない実際の性能を、このプロジェクトを通して検証し、今後の参考にしようと考えました。」(竹内氏)

3教室を1台の「WAPM-2133TR」でカバー

そうした経緯を経て、高杉小学校に導入されたのが、バッファローの「WAPM-2133TR」でした。

「高杉小学校は廊下側の壁がないオープン型の教室が3つ並んだ構造になっています。これを利用して、高性能な無線LANアクセスポイント1台で3教室への無線LAN導入を試してみようと考えました。少ない台数で複数の教室をカバーすれば、設置費用や工数を削減できますし、機器の管理もしやすくなるからです。『WAPM-2133TR』は、公平通信制御、トライバンド、バンドステアリングなどの機能を搭載しており、80台のタブレットで同時接続した場合の検証動画 も公開されていましたので、高杉小学校での検証に最適だと考えました。実際に3教室が並んでいる廊下に設置して動作テストを行ったところ、すべての教室に問題なく電波が届きましたので、3教室に1台、計3台の『WAPM-2133TR』で、特別支援学級を含む全学年全学級の普通教室で無線LANの利用が可能になりました。さらに理科室と家庭科室の間に1台、多目的スペースと視聴覚室の間に1台、音楽室と体育館に各1台の『WAPM-2133TR』を設置しました。」(竹内氏)

「今後の管理方法の参考にするため、ネットワーク管理ソフトウェア『WLS-ADT』も試験的に導入しました。サーバー設置などの必要がないため手軽に導入でき、運用コストもかからないのは魅力ですね。市内各所にある小中学校の機器を、教育委員会のPCからリモートで一括管理できれば、監視やメンテナンスにかかる時間労力も軽減できますので、今回のプロジェクトを利用して、高杉小学校の機器を問題なく管理できるかどうかを試しています。」(竹内氏)

高杉小学校の教室は、廊下との間に壁がないオープン型。廊下の壁に設置した1台の「WAPM-2133TR」で、3教室の無線LAN環境を構築している。現在は検証用の仮設置のため、ACアダプターを使用しているが、将来的にはPoEインジェクターの導入を検討している

高杉小学校のネットワーク構成

効果

「ロイロノート・スクール」を活用した協働学習の実施

教育委員会と連携しながらICT活用を推進

タブレット40台の動画同時再生を実現する「WAPM-2133TR」

通常授業から「ひろさき卍(まんじ)学」まで、幅広い学習にタブレットを活用

タブレットを活用した公開授業の様子。
普段と異なる環境にも関わらず、学習に集中し、
笑顔で取り組んでいる様子がわかる

無線LAN導入以降、高杉小学校では「まなびポケット」の活用に限らず、タブレットを活用した協働学習の実施に取り組んでいます。

「タブレット授業では、主に『ロイロノート・スクール』で調べたことをまとめたり、それを使ってプレゼンしたりすることが多いですね。『ロイロノート・スクール』は他の児童の画面を自分のタブレットに映すことができますので、お互いの考えを比較し、参考にしながら、自分の考えをまとめるのに大変役立っています。弘前市のことを知る総合学習『ひろさき卍(まんじ)学』では、地元の産業や歴史、文化について調べた内容をまとめて、発表しています。発表用の資料づくりでは、教員がクラウドにアップロードした写真をダウンロードして貼り込むなどの作業も当たり前にこなすようになっており、タブレットの操作、ネットワークの利用が自然に身に付いています。」(平野教諭)

タブレット授業には、主に「ロイロノート」を活用。
他の児童の画面を見ながら、互いの考えを比較したり、
参考にしたりすることができる

「手元にタブレットがあることで、児童がより積極的に情報を収集しようという態度が育ってきています。モデル校からは普段はあまり元気のない児童もやる気を見せるようになったという報告も受けています。公開授業では、100人近い大人に囲まれた普段と異なる環境にも関わらず、学習に集中し、笑顔で取り組む児童たちの姿が印象的でした。」(竹内氏)

環境が整ったことで、教員の取り組み姿勢が大きく変化

ハード面、ソフト面の環境が整ったことで、
教員の取り組み姿勢が変わったと話す平野教諭

竹内氏によると、高杉小学校の教員はICTに対する意識が高く、教員間の情報共有も非常に早い。ICTの活用状況は市内の学校で上位だという。しかし、教員の間にそういう姿勢が見えるようになったのは、現在の環境が整って以降のことだと平野教諭は語ります。

「もともとICTに詳しい教員は少なく、ICT導入の必要性を感じていても、それを研究して実施する方法がわかりませんでした。今回のプロジェクトを機に教育委員会、特に竹内さんとの太いパイプができたことで、ツールの活用方法を指南していただいたり、教員の質問や要望に答えていただいたりできるようになり、教員の取り組み姿勢が変わったのだと思います。今では、それぞれの教員が自分なりの活用方法を模索し、互いの授業を参考にしながら、授業内容の向上に努めています。共有ではなくいつでもICTを活用できる環境になったのも大きいと思います。もともと改善意識が高い教員たちですから、環境さえ整えば、ICT化は短期間で進むものなのだなと実感しています。」(平野教諭)

安定動作で管理もしやすい「WAPM-2133TR」に期待

各教室に設置されている実物投影機、プロジェクター、タブレットの
「弘前式」ICT3点セットとApple TV。タブレットの画面を
Apple TV経由でプロジェクターに投影し、「NHK for School」などの
動画教材を児童に見せている

「タブレットの画面をプロジェクターで投影する際には、試験的にApple TVを導入して共有で使っていたのですが、無線LANの安定動作が確認できましたので、台数を増やしました。また『NHK for School』の動画を見せる時には、教員のタブレットで再生してプロジェクターで投影するのが基本ですが、試験的に40台のタブレットで同時再生してみたところ、全く問題なく再生ができました。これが実現できているのは今のところ『WAPM-2133TR』を使っている高杉小学校だけですね。」と、竹内氏は話す。

「『WLS-ADT』の試験運用も順調です。今は監視をしているだけですが、問題なく稼働していることがわかるだけでも安心ですし、今後、電波強度の調整などが必要になった時には、さらに役立つと思います。また、災害時にパスワード無しで無線LANを開放する『緊急時モード』の活用も検討していく予定です。」(竹内氏)

弘前市は、「『弘前式』ICT活用教育推進事業」「次世代のひろさきICT活用教育チャレンジプロジェクト」を継続しながら、全国ICT教育首長協議会「ステップモデル校プロジェクト」への参加も決定。次のステップに向けて慎重かつ確実に学校のICT化を進めています。


取材後記

公立小中学校の無線LAN導入には大規模な費用がかかるため、予算を確保するのは容易ではありません。そんな中、弘前市教育委員会は、一部のモデル校に試験的に無線LANを導入し、最小限の予算でICT活用の効果を検証しています。同時に各メーカーの機器を検証したいとのご要望があり、弊社もこのプロジェクトに参画させていただきました。設備を整えて終わりではなく、各学校と連携をとりながら、少しずつ丁寧にICT活用を進めていこうという竹内氏のお考えと熱意に、これからも精一杯お応えしていきたいと思います。


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